【戦下手の魔王】経済力で天下を制す(後編)

【戦下手の魔王】経済力で天下を制す(後編)

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【戦下手の魔王】信長は凡将だった(前編)
【戦下手の魔王】一夜城の奇跡(中編) 

織田信長の基本戦術は「敵の目の前で戦争建築物を造る」ということ。豊臣秀吉にも受け継がれた「一夜城」が、その代表例です。

それには、強大な財力を必要とします。優秀な職人を常に抱え、いつ何時どこへでも派遣できるような体制を整えなければなりません。

ですが信長は、それを可能にしました。「戦下手の魔王」の真の実力が、ここにあります。

目次

困難な石垣造り

かつて、日本の教育現場では「城の建設に関わった土木職人は口封じのために殺された」と教えられていました。そしてそれを根拠に「中世から近世にかけての日本は独裁者による圧政が続いていた」という言説を繰り広げる有名学者も存在しました。

ところがマトモな認識の学生から「職人をいちいち殺してたら城なんて造れないのでは?」というツッコミが相次ぎます。すると学者は「建築士は生かしておき、建設に携わった末端の職人を皆殺しにした」と弁明しました。

やはり、歴史研究も個々の人生経験がモノを言います。自分で釘を打ったこともない人が下手に歴史学の博士号を取ってしまうと、常識ではあり得ない珍説を唱える研究者になってしまいます。

4月の熊本地震で、九州のシンボル的存在の熊本城が大きなダメージを受けました。特に深刻なのは、崩れた石垣です。これを修復できるかどうか、専門家の間でも意見が割れています。

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石垣というのは非常に緻密な計算の上で組まれているのであり、それを修復するには現代ですら長い年月と大勢の職人を必要とします。熊本城の場合は、復旧に10年以上かかってしまうそうです。

中世・近世の職人は、全員が特殊技能を持った「匠」であるということを忘れてはいけません。

大名の「力の根源」

戦国時代は、「職人の奪い合い」という側面もありました。自分の配下に何人の専門職従事者がいるのか。それが戦国大名の力となりました。

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たとえば、藤堂高虎。この武将は生涯に幾度も主君を代えています。最終的には徳川家康の配下に収まるのですが、それでも高虎は家康から見れば裏切りの可能性が否めない「外様大名」です。

そんな高虎に、江戸城の石垣建設という重要な任務を与えています。なぜこうしたことを外様大名に任せたのか。普通に考えれば、徳川幕府の最重要拠点の建設は譜代の家臣にやらせるべきです。

答えは一つ。「藤堂工務店」は当時の日本で最も優れた技術を持っていた建設業者だったということです。石垣というのは、ただ石を切り出して積めばいいというものではありません。寸分の狂いもなくピッタリ石を重ねる技術は、現代ですら一筋縄ではいかないものです。

だからこそ、そうしたことができる技能集団を味方にしなければなりません。要するに信長は、この部分に目をつけたのではないでしょうか。

金がモノを言う乱世

戦場に長大な馬防柵を造り、敵の居城の間近に砦を築く。場合によっては敵の城を水攻めにするため、地形そのものを変えてしまう。

これは信長が、常に優秀な土木職人を数多く抱えていたという証明です。また、それを可能にするだけの財力も持っていました。楽市楽座を整備し、対外貿易のための港を手中に収めることで信長の懐に巨利が転がり込みます。そしてそれを、各地にばら撒いたのです。

「富のばら撒き」というイメージは信長よりも豊臣秀吉のほうがしっくりくる感じですが、実は秀吉は「師匠」である信長のやり方を継承したに過ぎないという見方が自然ではないでしょうか。

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そして、信長よりも前線指揮官としては遥かに優秀だったナポレオン・ボナパルトは、金策面では「愚将」と言ってもいい人物でした。

ナポレオンはイギリスを敗北に追い込むため、大陸封鎖令を出しました。これはナポレオンの支配下に入った諸国に対し、イギリスとの貿易を禁じる命令。ですが当時最も工業化が進んでいたイギリスを抜きに、ヨーロッパ経済は成立しないという状況でもあります。

そうである以上、「貿易を一切禁止」ではなく「イギリスに不利な条件を課した上で貿易を行なう」という手段を採用したほうがより現実的だと思うのですが、ナポレオンは軍人です。「敵国を負かして賠償金を取る」ということくらいしか考えがなく、そのため1806年以降のフランスは慢性的な資金不足に陥っています。

信長は「戦下手の魔王」でしたが、ナポレオンは「商才のない皇帝」だったのです。

決して屈強ではない第六天魔王は、あり余る経済力で己の弱点をカバーしていました。それこそが彼の真価と言えるでしょう。

【戦下手の魔王】シリーズ

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