とある4月某日、それは春一番が吹いた日だった。
私は昼間の陽気な温かさにつられ夕方から地元で焼き鳥が美味しい
炭旬 で一人晩酌をしていた。
あれはたしかハイボールから芋焼酎に変えようかと思ったときだった。
私は見てはいけないものを見てしまった。
一瞬、ここは秋葉原なのかと思ってしまうくらいの原色が目の中に飛び込んできたのだ。
もちろんここは船橋なんだが。
そしてテーブルにはパソコンが並べられている。それも驚くほどに。
そして一番、驚いたことは彼らは一言も言葉を発していない。
まさに謎の集団である。
そのスクープがこれだ!!!
どうやらセンターの赤い男がリーダーらしい。
彼らは時より、ニヤリと笑いながらカタカタ、カタカタと叩いている。
どうやら会話はすべてチャットで行っているようだ。
どうやら店内のお客は何も気づかないようだが一人だけ完全におかしい顔してる。
むしろこの男はどうやって飲み食いしたんだろうか。(笑)
私は面白そうなので彼らの後を追うことにした。
どうやら領収書を3分きゅうけいで書いてもらっていたのでそういう団体名なのだろう。
いったい何をしている人たちなのだろう?
近くの300円で飲み食い出来る元祖 参佰宴というお店に入った。
彼らは派手な服装のわりには地味な飲み食いをしてる。
お金があまりない貧乏人なのだろうか。
ここでも不思議なことに周りのお客はみな気づかない。
このおかしな現象が見えるのは私だけなんだろうか?
どうやらみなパソコンの電源が切れたりしていた。
充電がなくなるとは彼らは何時間チャットをやっていたんだろうか?
店をあとにして解散するんだろうかと思ったら、さらに船橋の奥地に進んでいきベルビーというお店に入った。
なんとこちらは一つ一つの席にコンセントがついているではないか!!!
水を得た魚の如く彼らは、けたたましくキーボードを叩いた
それは充電という溢れとどまることのないエネルギーを体中から放出しているかのようだった。
カタカタがやまない。止まらない。彼らは何かに取りつかれたように叩き続ける。
その音は眠れる獅子を起こすほどの強烈な音だった。
が、彼らは窓側の方たちが起きると何も言わずさらっと帰っていった。
その立ち振る舞いがあるにも見事に七色の水が流れるようにするりするりと店内から出ていった。
起こされたお客はなんだかわからなかったが店内には寝ている客がいないというユートピアだけが残った。
そこで私は気づくのだった。
彼らは何か文章を作っているのではなく、ただただ
『キーボードをカタカタ打ちたい』だけだったんだと。
(氷堂雅也自伝「海老で鯛を釣る」~第弐章はじまりはいつも雨だった~第105ページより抜粋)