3分休憩

【戦国奇人列伝】偉大なホラ吹き男 フェルナン・メンデス・ピント(第5回)

日本の戦国時代は、外国人が多く来訪した時期でもありました。

なぜかと言えば、16世紀は世界的に見れば「大航海時代」の真っ只中だったからです。ヨーロッパ人は、東洋とつながる海路を有史上初めて発見しました。そこから貨幣経済が急速に発達するのですが、同時に世界の戦争は資金力がモノを言うようになりました。

そうした状況の中で登場したのが織田信長であり、豊臣秀吉であり、徳川家康です。

どのような外国人を優遇すれば、より大きな利益を手にすることができるのか。ひとことで「南蛮人」といっても、いろんな人間がいます。日本を侵略する気まんまんの奴もいれば、極東で一攫千金を夢見る奴も存在したわけです。

で、中には「お前、日本に何しに来たの?」と突っ込んでやりたいような奴もいました。フェルナン・メンデス・ピントがまさにそれです。

目次

ホラ吹きオヤジ、日本をゆく

メンデス・ピントをひとことで言い表わせば、「ホラ吹き」です。

ポルトガル人のこのオッサンは、晩年に自伝を執筆しています。「これまでの自分の航海人生について」というような内容です。ところが、「俺は何回も奴隷として売り飛ばされ、世界各地の戦争で大活躍し、各地の権力者に仕えて、東洋では超有名人になったんだぜ!」という明らかなホラ話を堂々と書いています。

ただ、冒険商人として日本に行ったというのは本当らしく、実際に現地を見たものでしか書けないほどの細かい描写がオッサンの本にはあります。ほら、アレです。自分の見たものを何でも大きく語りたがる奴っているじゃないですか。そういうのって、いつの時代にも存在するんです。

で、このオッサン「日本に鉄砲を伝えたのは俺だ!」と主張しています。もちろん、現代の歴史学会でもこの主張は相手にされていません。

大名とも面識が

ところが、このメンデス・ピントはとある大事故を目の当たりにしています。

それはあの大友宗麟の弟にあたる大内義長が、火縄銃の暴発事故を起こした一件です。これは戦国マニアの間では結構よく知られている(はずの)事故ですが、当時「大友晴英」という名だった義長はメンデス・ピントの火縄銃を勝手に持ち出し、見よう見まねでそれを射撃したというものです。

ところが火薬の詰め過ぎで暴発(というより腔発か?)させてしまい、義長は瀕死の重傷を負います。メンデス・ピントはそれを介抱し、治療まで施したという話です。

オッサンが義長の治療をしたというくだりはともかくとして、この暴発事故自体は本当にあったそうです。それにしてもこの大内義長という人物は、その後波乱万丈かつ悲劇的な人生を送っています。名前が示す通り、彼は山口の大内家の跡取りになるのですが、この頃は陶晴賢が大内義隆に謀反を起こしたあとだったため、事実上の傀儡として晴賢に祭り上げられる始末。しかも最終的には毛利元就に滅ぼされてしまいます。

これだけ不運な大名も珍しいのですが、振り返ってみればケチのつき始めはこの暴発事故だったのかもしれません。

ホラは後世で輝く?

で、オッサンはあのフランシスコ・ザビエルとも面識があります。

日本で初めて会っていろいろ薫陶を授かったそうですが、オッサンはザビエルの死後にその遺体をインドのゴアで見ています。死後何ヶ月も経ってるから完全に腐敗し切っている……と思いきや、何と死後間もない状態のような綺麗な姿だったそうです。

これもやっぱりオッサンのホラかと思いきや、じつは他にも同じ証言をしている人がいて、しかも現代のカトリック聖職者はこのことを事実として認めています。あながち、ホラばかり吹いてるわけでもなかったようです。

とにかく滅茶苦茶すぎて魅力たっぷりのメンデス・ピントですが、ただひとつ残念なのは彼があと10年ほど極東に滞在していれば……という点です。そうなると織田信長が台頭するため、ホラ吹きとうつけ者の共演も可能性としてあり得ます。

また、メンデス・ピントは日本側の史料には一切出てきません。どうやら当時の日本人には「その他大勢の南蛮人」と見なされていたようですが、彼くらいのとんでもない外国人なら太田牛一あたりが記録に書いてくれそうな気もします。

ただ、見方を変えればメンデス・ピントは戦国前半期の日本の様子を書き残してくれた数少ない外国人。後半期にはルイス・フロイスという極度の筆まめが登場するわけですが、彼がまだいなかった時期の日本を伝えたという点でメンデス・ピントは大いに評価できます。

世紀のホラ吹きは、偉大な証言者でもあったのです。

 

戦国奇人列伝シリーズ

どうも、「戦う青色申告者」澤田真一です。さて、世の中には口で言う割には大したことない男がゴマンといます。「俺はこんなすごいことをやってるんだ」と公言してるくせに、実際には大したことない男。どの職場にも大抵一人はいますよね?で、もしそんなタイプの人間が戦国大名になっちゃったら、もう大変なわけです。下の人間はとてもついていけません。今回ご紹介する六角義治は、まさにそんな人物です。つぎはぎだらけの名門・六角氏六角氏は、鎌倉時代から南近江で幅を利かせる勢力として君臨していました。室町幕府成立後は守護...
【戦国奇人列伝】めげない迷惑男・六角義治(第1回) - 3分休憩
南近江の大名六角義治は「武勇に優れたバカ殿」でした。誰しもが認める弓の名人で、肉体的にも非常に堅強。ですが戦略眼がまったくなく、奮闘したにもかかわらず大名には復帰できませんでした。今回はそんな義治とは対照的に、「戦略眼に優れた弱小大名」をご紹介します。この人物は大きな決断を迫られる場面で常に正しい選択をして、戦乱の世を生き抜くことができました。ところが彼には、それ以外の要素は一切持ち合わせていません。武勇も兵力も家臣からの人望もなく、さらには本人の心に「野望」というものがまったくありませんで...
【戦国奇人列伝】常に正しかった弱小大名・山名豊国(第2回) - 3分休憩
戦国奇人列伝の第3回目は誰を紹介するか。これは非常に悩みました。1回目は「武勇に優れたバカ殿」六角義治、2回目は「突出した戦略眼の弱小大名」山名豊国を題材にしました。となると3回目は、やっぱりあの人物しかいないのかなぁ……と澤田は考えました。山口の大名、大内義隆です。彼ほど「日本人」を表している人物は、他にそうそういないと私は思います。そして義隆は日本文化にとって大きく貢献している人物で、その方面では織田信長よりも歴史に深く食い込んでいます。ですが同時に、「日本人の弱点」というものを露呈させてしま...
【戦国奇人列伝】戦争を放棄した戦国大名・大内義隆(第3回) - 3分休憩
今回は「ワクチンと抗生物質」についての話から入ります。本題とは全く関係ないじゃないか! と突っ込まれそうですが、まあちょっとだけ我慢してください。世にはびこる陰謀論の定番に、「製薬会社の世界征服」というものがあります。本当は身体に有害なワクチンと抗生物質を各国にばら撒き、大儲けしているという話です。そうした昔からある陰謀論に肉付けしたのがゲームの『バイオハザード』なのですが、ともかく「ワクチンと抗生物質は製薬会社の陰謀」という話を信じている人が、日本にも割と多くいます。で、そういう人のブログ...
【戦国奇人列伝】父上に無断で朝鮮出兵! 黒田熊之助(第4回) - 3分休憩
日本の戦国時代は、外国人が多く来訪した時期でもありました。なぜかと言えば、16世紀は世界的に見れば「大航海時代」の真っ只中だったからです。ヨーロッパ人は、東洋とつながる海路を有史上初めて発見しました。そこから貨幣経済が急速に発達するのですが、同時に世界の戦争は資金力がモノを言うようになりました。そうした状況の中で登場したのが織田信長であり、豊臣秀吉であり、徳川家康です。どのような外国人を優遇すれば、より大きな利益を手にすることができるのか。ひとことで「南蛮人」といっても、いろんな人間がいます。...
【戦国奇人列伝】偉大なホラ吹き男 フェルナン・メンデス・ピント(第5回) - 3分休憩
戦国時代は、当然ですが究極のサバイバルの時代です。いつ誰が裏切るのか、予想ができない状況にありました。ところが、この時代のことを調べてみると「勝手な寝返り」も許されないということが分かってきます。それはどういうことか? たとえば、明日にでも討ち滅ぼされそうなA軍の武将がB軍に寝返りました。けれどB軍の総大将がそれを承知でなかった、すなわちその武将がB軍に相談なく寝返った場合、彼は褒められるどころか処刑されてしまう可能性が高いわけです。戦争というのは、勝てばいいものではありません。敵から領地を奪っ...
【戦国奇人列伝】裏切りはやっぱり大罪? 小山田信茂(第6回) - 3分休憩
モバイルバージョンを終了