編集部員ヒョウドウが、イマ興味でインタビューする「ヒョウドウくんが行く」の第11弾。
「あなたは昨日どこ産のマグロを食べましたか?」
大間のマグロです!と、答えてみたいヒョウドウです。
今回は椎名町という池袋の隣の駅。ちょっと知らない駅かもしれませんが、マグロ屋さん『おぐろのマグロ』を経営されている、小黒食品株式会社代表取締役小黒宏さんにインタビューをしてきました。実は築地の場内でマグロ専門卸業をされて、夕方からお店を経営されているとてもハードライフの方でした。
Q.
マグロ屋さんということでいろいろとお話を聞きたいのですが、まず初めにどういう経緯でマグロ屋さんになったんですか?
A.
実は私は3代目なんですね。いま流行りの(笑) 祖父が新潟から出てきていろいろなとこで奉公していて、最後はエビ屋さんで番頭を経て築地で独立しました。ただ、実は祖父が始めたのはマグロではなくカジキだったんですね。そしてその当時はカジキは魚肉ソーセージになるので安く仕入れて大量に売れたんですね。昔の顧客リストをみると日本で誰もが知ってるソーセージやハムを扱ってる会社ばかりでした。
その当時は大手の食品メーカーも市場でしか買えなかった時代だったですよ。ただ、だんだんとカジキが取れなくなってきたり、大手が直接漁師と契約しちゃって市場を通さなくなってしまったんですね。それで私の父の代にマグロに切り替えたんですよ。
その父の代はまだ漁船がそれほど進化してなかったのでマグロの質が悪かった分、安かったんですね。ただそこから船に冷凍室が出来たりいろいろ進歩して市場に届くまでのマグロにコストが掛かるようになり、マグロの値段が高沸しました。
その分、マグロは飛び抜けて美味いものが市場に出るようになりましたよ。それと中国船の冷凍マグロは自国で消費するようになり、日本に入らなくなったのも値段が急沸した原因でもありますね。
Q.
なるほど。そういう経緯があったんですね。そういえばこの前『すしざんまい』の社長の感動的な記事を読みましたが、そのまえにアフリカ大陸の近くにマグロなんているの??なんて思ってしまいました。やはり大間のような寒くて海流が早いとこのマグロが美味いと、ここ最近刷り込まれてきましたから。
A.
実はあのインド洋のあたりはメバチマグロの宝庫なんですよ。でもあの地域が政治の混乱やいろいろな理由で現地の方が海賊になるしかなくなって約3年の間、取りにいけなかったんですね。台湾なんかは軍隊を船に乗せて取りに行ってましたよ。
で、3年近くマグロを取る人がいなかったので爆発的にメバチマグロが増殖してます。海の生態系も変に崩れてませんからマグロは良い餌をたくさん食べてますからね。
赤道直下にもマグロはいるんですよ。よくみなさんが聞くインドマグロなんてのがまさにそれです。結構深いところにいるんで、実はほど良いアブラが乗っていて美味しいんですよ。
Q.
なるほどー。結構、常識を崩された感じですね。で、話を戻らせていただいて、おじいさん、おとうさんと卸業をやられてる家で、生まれて何歳くらいからマグロ屋になろうと思ったんですか?
A.
中学生くらいからですかね。普通、家業を継ぐのが嫌とか聞いていたんですが、私は親の手伝いを幼いころからしていてカッコ良いなぁとずっと憧れていましたからね。やはり仕入れ、セリですね。
もう強くあこがれていました。全国から集まったマグロがずらっーと並んでいて、そこに荒々しくみんな品定めした商品を落としあう。日常にはないギラギラしたものがそこにはありました。希望より高く買ってしまったものを戻ってきてどうやってお客さんに買ってもらうか考えたり、そこにきちんと利益を乗せないといけないですからね。
20年くらい前ですかね、その頃はマグロはバラエティに富んでましたよ、種類も品質も。見た目が少し悪くて大丈夫かな?と思ったマグロを開けてみたら輝いてるものが出てきたときとかはよっしゃーっ!ってなりますしね。ギャンブル性も多分に含んでいるんですよ、マグロの仕入れって。あれは誰でも少しカジったらやめられなくなりますよ!
今は大手の企業も参入してきて上がったマグロがすべて築地に並ぶわけではなくなりましたから、昔ほど大当たり大ハズレはなくなりましたけどね。
Q.
ちょっとずれてるかもしれませんが競馬に近い感じなんですかね?
A.
まったくその通りです。パドックで全然だめだと思われてた馬が実は走ったら独走しちゃったりとか。もう毎日、ワクワクする仕事でした。これが仕事になるわけですから、他の仕事なんて目が向きませんでした(笑)
Q.
お店を構えて小売りするようになったのはいつからですか?
A.
実は大手さんに商品を納品するのに築地の加工場だけではスペースが足りなくて東長崎に加工場を作りました、大借金をして(笑) ただ大手さんが順調に成長して事業が大きくなってしまって卸を通さず直接漁港と契約を結ぶようになってしまいウチを去ってしまったんです。
残った土地と加工場を何とかお金を生むものに変えないといけなくなって内装を入れてお店に変えたんですね。と言っても住宅街ですよ。とてもお店をするところではないんです。
Q.
なるほど。背に腹は変えられない状況だったんですね。ただ、この街にもスーパーや魚屋さんがあってもやっていけると思ったんですか?
A.
やっていけるというよりやっていくしかなかったんですが、地元の人はうちが築地の卸をしているのは知っていましたから、すんなり町の人には認識していただけました。そして町の方からもらう意見も思っていたこととは別の意見をもらいました。スーパーや魚屋とは違うくくりで見られていて驚きました。
もちろん同じ町で商売してますから、スーパーや魚屋より安くならないように値段は相場に合わせました。ただ言われる言葉は、普段はマグロなんて食べなかったけどウチで買って食べてからマグロを家でも食べるようになったとよく言われます。マグロは外食でしか食べない方がかなり多いことに驚きました。
Q.
苦しさから出来たお店がたくさんの方を幸せにしてるなんていい話しですね!
A.
ええ。なんとか地域の皆さんに助けられてやってます。特にご年配の方が多くいらしてくださってくれるのがうれしいですね。みなさん、バギーを押しながらいらっしゃるのでスロープと手すりを入り口につけました。
そしてこの住宅街でやっていたら駅近くの商店街でも空き物件が出たから、ここでお店をやってくれないかと商店街の方にお願いされて椎名町で2店舗目を出しました。おぐろのまぐろ。こちらは一階でお刺身などの小売り、二階でランチを始めました。テーブル4席の小さなとこですけどね。
Q.
いやランチも毎日満席でなんとか良い方向に行ってよかったですね。では今は朝方は築地、夕方から椎名町ということですか?
A.
そうですね、朝というか夜というか深夜2時に起きて築地で仕入れ、セリですね。そのあと築地のお店でマグロを加工して午前中にお得意様に配達をして昼の3時から板前としてお店に入っています。寝るのは10時くらいですかね。
Q.
すごいですね!休みはあるんですか?というか、どこに向かってるんですか?(笑)
A.
築地が休みの水曜日と祝日ですね。いや元々は板前がいたんで、また良い板前さんと出会えたら私は仕入れに専念したいと思ってますよ。一番やりたいこと仕入れやセリでしたからね。
Q.
ところで通販サイトでも一般の方が買えるようになってるんですよね?
おぐろのまぐろ 通販サイト
A.
はい、一般の方にも美味しいマグロを食べていただきたいので作りました。デパートで売ってるようなものがお得で買えるようにしました。
Q.
最後にまたマグロの話しに戻るんですが、スペイン産のマグロがあるってきいたけど本当ですか?
A.
はい、ありますよ。マグロは地球上の全部の海にいるんですよ。日本付近を通って太平洋をグルグル回るマグロもいれば、ヨーロッパの方の大西洋や地中海をグルグル回るマグロもいます。同じ本マグロでも太平洋本マグロと大西洋本マグロとかいます。
同じ本マグロでも骨の付き方が全然違うんです。色も違いますし。大西洋のマグロもだいたい日本が買っているんですよ。特に大きな企業とかが。
Q.
ふと思ったんですが大きな範囲を回遊しているならどこ産のマグロってあんまり関係ないんじゃないですか?たまたま日本の近くで水揚げされれば日本製だしそのまま中国に流れれば中国産になるし。
A.
まぁ、そうですね。水揚げ地点の話しですね。日本でも大間のマグロか北海道の戸井で揚がったかの差ですからね。ただ、和歌山の方とかで取れても日本近郊で取れたマグロは良い値が付きますよ。
国産天然マグロというブランドがつきますからね。不思議なもので大間で取れれば最高級が付きますが、そこをくぐり抜けて取れたマグロは値が下がります。もちろん専門的なことをいえば寒い荒波を泳いでいるときが一番うまいアブラがのるからという理由はありますがね。産地によって違うのは餌となるサバなどの魚に影響されます。なので日本近郊ではそれほど差はありませんよ。
ただ、最近は日本近郊にいる魚自体が栄養をあまりもっていないのでマグロに大きく変化を与えています。今は北大西洋、アイルランドとかの魚は本当に美味しいです。海が荒らされていないので魚が食べる餌が豊富ですから、その栄養素をたっぷり食べてる魚を食べてるマグロは本当に美味しいです。
ボストンとかカナダ産とかも本当に美味しいです。でも日本近郊でとれたマグロのほうが圧倒的に国内では値段がつくので、みんな国産といわれるものを買いますね。僕はうまいほうが勝ちだと思うんですけどね。
Q.
そうなんですね。みんなマグロの味ではなくて名前を食べているのかもしれないですね。
A.
本当にそうおもいます。日本人がもっとマグロについて知識を持てば、こんなやせ我慢勝負じゃないですけど、名前で商品を買うんではなくて味にお金を払う、本当に美味しいものにお金を払うようになっていく話しなんですけどね。地球規模でみると、なんともこっけいな話しでもあります。
『あなたは昨日どこ産のマグロを食べましたか?』
小黒 宏さん 1971年3月25日生まれ
東京都豊島区生まれ 小黒食品株式会社 代表取締役