小説「火花」が売れに売れている。
著者の又吉直樹さんといえば、太宰治ファンとして有名。
太宰ゆかりの船橋(作家デビューのころ療養のため滞在した)で、
その人となりを研究する海老原義憲さんが、
かの有名な「走れメロス」と、又吉さんの「火花」をつなぐ
おもしろいエピソードを教えてくれた。
キーワードは熱海
「火花」は、冒頭もクライマックスも、熱海の花火大会が舞台になっている。
紆余曲折を経て、
熱海の旅館の露天風呂で揺れる 「神谷さん」のおっぱいで
物語が締めくくられる。
海老原さんによれば、実は太宰も熱海には浅からぬ因縁がある。
「走れメロス」は、太宰が熱海で起こした「事件」が元になっているというのだ。
走れメロスの元ネタとは?
メロスは友情と勇気の美談だが、元はなんとも情けない話だ。
太宰と、友人で作家の檀一雄が熱海で豪遊したが、持ち金がつきて代金が払えなくなった。
太宰は、壇を人質として熱海に置き、ひとり東京へ金策に走る。
もちろん、熱海に戻って金を払うためだ。
ここまではメロスによく似た話だが、実際の太宰は一向に熱海へ戻って来ない。
しびれを切らした熱海の置屋と壇が東京へ催促に行くと、
太宰は先輩作家の井伏鱒二と、のんびり将棋を打っていた。
借金の申し出を、切り出せなかったのだ。
壇は鬼の形相で迫ったに違いない。
そこで、太宰が言い放ったひとことが
「待つ身がつらいかね、待たせる身がつらいかね(待っているほうより、待たせるほうがつらいんじゃい!)」
けれど、この性格の悪さ(?)に人間味を感じないだろうか?
太宰は、このヒドイ逸話を、 どんな気持ちで感動の友情物語に仕立てたのか・・・・・・。
と、考えると作品にもがぜん興味が湧いてくる。
作者の人となりを知るのも、小説の楽しみ方のひとつ。
その点、又吉さんは芸人さんでもあるから都合がよい。
テレビをじっくり観察すると、「火花」や後に続く作品が ますますおもしろくなりそうだ。